アリサリウの「歯」の秘密——金メダリストを彩るスマイリーピアスの正体と健康リスク
2026年2月、ミラノ・コルティナオリンピックのフィギュアスケート女子シングルで金メダルを手にした瞬間、世界中の視線は彼女の演技だけでなく、もうひとつのものに吸い寄せられた。アリサリウの「歯」だ。
ショートプログラム3位から逆転、合計226.79点で金メダルを獲得したアリサリウ。表彰後にメダルを噛んだ口元から覗いた歯が話題となり、ファンの関心が世界規模で集まった。きらりと光る銀色の物体——矯正器具か、特殊なアクセサリーか。SNSは一夜にして疑問の声で埋め尽くされた。
前歯の「銀色の物体」、その正体は
金メダルを近づけた口の上歯茎に銀色の物体がついている。これは「歯ピアス」と呼ばれるもの。Zetith Dental Clinicの佐久間絢子院長によると、アリサ選手のものは上唇と歯茎をつなぐ組織に装着する「スマイリーピアス」だという。
日本のファンたちも同様に驚いた。笑顔を浮かべると、上の前歯とともに矢印のような柄のピアスが浮かび上がる。あまりに意外な光景に、日本のファンからはXに驚きの言葉が並んだ。「矯正器具だと思っていた」「初めて見た」という反応が相次ぎ、その独特なスタイルはたちまち拡散された。
アリサリウ本人が明かした「スマイリーピアス」の秘話
リウは米放送局「NBCベイエリア」公式インスタグラムに公開された動画で「これ、私の『スマイリー(ピアス)』なの。開けたのはいつだっけ……たしか2年ちょっと前かな。上唇小帯(歯茎のひだ)に貫通させてるから、笑った時にだけ見えるんだよ」と、秘話を明かしている。
さらに驚くべき事実がある。リュウは五輪前の1月、米NBC系列局とのインタビューで、同ピアスについて聞かれ、2年ほど前に妹に手伝ってもらい、ピアシングニードルを使って自分でピアスを開けたと明かした。「全然痛くないよ」という本人のコメントには、さすがアスリート、という声も上がったが、専門家たちの見解はまったく違った。
スマイリーピアスとは何か——仕組みを歯科的に解説
スマイリーピアスは、一般的なピアスとはまったく異なる場所に装着される。〝スマイリーピアス〟と呼ばれるこのピアスは、上歯茎と唇をつなぐ組織に挿入するもの。この組織は「上唇小帯(じょうしんしょうたい)」と呼ばれ、口を大きく開けると見える薄いひだ状の組織だ。通常の状態では外から見えないが、アリサリウのように大きく笑うと前歯の中央にピアスが浮かび上がる仕組みになっている。
「大きく笑った際に上唇が持ち上がることで前歯中央部分に見える構造になっていて笑顔を強調する効果がある」と専門家は説明する。ふだんは隠れていて、笑顔になったときだけ輝く——いかにもアリサリウらしい、個性的な演出だと言えるだろう。
「ティースジュエリー」の流行と今回の注目
「ティースジュエリーは去年流行っていたんですよ。ピアスじゃなくて、キラキラを歯に貼り付けて。ラッパーの方とかがやっていたようなやつが女の子の間でも一時流行っていて。ガチピアスはなかなか気合い入っている」と、あるコメンテーターは解説した。歯に装飾を施すカルチャーはすでに一定の広がりを見せていたが、スマイリーピアスは別格の存在感だ。金メダリストがそれを世界の舞台でさらりと見せたことで、関心は一気に高まった。
海外でも反響は大きかった。「どうやって歯を磨いているの?」「矯正器具をつけていると思ってた」「食事はどうしているんだ……」「2年間も付け続けていたなんて凄いな」——好奇心と驚きが入り混じったコメントが英語圏でも飛び交った。
歯科専門家が警告する「健康リスク」
かっこいい、かわいい、という称賛の声の一方で、医療的な観点からは看過できない問題も指摘されている。
「長期間ピアスが歯や歯ぐきに接触すると清掃性が低下し『歯茎が下がる』『歯が欠ける』といったリスクも考えられる」と佐久間院長は語る。日常的にピアスが口腔内の粘膜や歯に接触し続けることで、気づかないうちにダメージが蓄積される可能性があるのだ。
アメリカ歯科医師会は、「口腔内には高濃度の細菌が存在し、感染リスクを伴うことから、特に自分で歯ピアスを開けることは避けるよう」注意喚起している。
さらに、感染による腫れや出血、瘢痕(はんこん)、ピアスからの異常な分泌物、歯や歯茎への損傷、外科手術による除去が必要となる可能性など、多くの副作用についても警告している。
専門家たちは、今回の五輪で多くのフィギュアスケートファンをとりこにしたリュウにあこがれ、前歯ピアスをまねする若者たちが増えることを警戒している。特に、アリサリウが自分で施術したという事実が広まったことで、安易な模倣を試みる若い世代が出てくることへの懸念は大きい。
スマイリーピアスのリスクをまとめると
| リスクの種類 | 具体的な影響 |
|---|---|
| 感染リスク | 口腔内細菌による腫れ・出血・化膿 |
| 歯・歯茎へのダメージ | 歯茎の後退、歯の欠け |
| 清掃性の低下 | 歯磨きが困難になり虫歯・歯周病のリスク増 |
| 瘢痕形成 | 除去後も組織に傷跡が残る可能性 |
| 外科的除去の必要性 | 悪化した場合は手術が必要になることも |
天才スケーターとしてのアリサリウ——「歯」の話題を超えた実力
もちろん、アリサリウが世界的に注目を集めるのはスマイリーピアスのせいだけではない。2026年ミラノ・コルティナオリンピック女子シングル金メダリスト、団体戦金メダリスト。2025年世界選手権優勝、2025年グランプリファイナル優勝という輝かしい戦績を持つ。
2019年、13歳にして史上最年少で全米フィギュアスケート選手権を制覇。さらに翌年も全米選手権を連覇し、ジュニア時代には女子として初めて1つのプログラムで4回転ルッツとトリプルアクセルを同時に成功させるという偉業も達成した。
2022年の北京五輪に出場して6位入賞を果たしたアリサリウだが、大会後にまさかの引退を発表した。当時まだ16歳という若さでの電撃引退に、世界中のフィギュアファンが衝撃を受けた。その後、自らの意思でリンクに戻り、わずか2年弱で世界の頂点に立った。その復活劇は、スポーツ史に残る物語のひとつとして語り継がれることになるだろう。
「かっこいい」と「真似しないで」のはざまで
アリサリウの歯のピアスをめぐる議論は、ファッションとして見たときの魅力と、医療的な視点から見たリスクが真っ向からぶつかるケースだ。「似合うのがうらやましい」という称賛の声も多い一方で、専門家たちは若いファンへの影響を強く案じている。
ひとつ確かなことがある。スマイリーピアスは、アリサリウのような個性と覚悟を持った人間がつけてこそ輝くアクセサリーだ。気軽に真似できるものでは、絶対にない。自分でニードルを使って施術するのは特に危険であり、もし検討するならば必ず専門の医療機関や認定ピアッシングスタジオに相談すべきだ。
金メダルと同じくらい輝いていたあのスマイリーピアス。それはアリサリウの自己表現の一部であり、彼女の唯一無二のキャラクターを象徴するものでもある。だが、その「輝き」の裏側にあるリスクは、ファンが知っておくべき重要な情報だ。演技の美しさを堪能しつつ、歯と口腔の健康についても改めて考えるきっかけにしてほしい。